
- 生産国
- 日本
- 生産地方
- 新潟
- 分類
- 日本酒
- タイプ
- 特別純米酒、吟醸、大吟醸、純米吟醸
- 主原料
- 山田錦、五百万石
「幻の酒」と呼ばれる日本酒は多くありますが、必ず名が挙がるのが越乃寒梅でしょう。おいしい日本酒として必ず名前が上がりますし、それほどお酒に親しみのない方でも聞き覚えがあるのではないかと思います。
越乃寒梅は淡麗辛口の日本酒然とした味で、日本酒に親しみのない方でも楽しめるお酒です。
口に含むと、冬の最中に咲く梅の花を思い起こさせる、ほのかな香りと甘みを感じます。飲み口は軽く、すっきりさっぱりとしています。しかし、軽いからといって浅いわけではなく、飲み終わった後に残る余韻が深みを感じさせます。
越乃寒梅は新潟県の中央に位置する亀田郷にある、石本酒造で生まれます。亀田郷は日本酒作りに欠かせない良水に富み、また低温環境であるという酒造りには絶好の恵まれた地です。
ここは梅の名産地でもあり、早春の頃にはまだ雪の残る中で梅の花がほころびます。冬の張り詰めたような澄んだ空気の中で、可憐に凛と咲くこの梅の花が、越乃寒梅の名の由来となっています。
越乃寒梅は気取ったお酒ではなく、地元で農作業に勤しむ人々に喜んでもらうために、という素朴な理念の下で生まれました。この「喜んでもらえる酒を造る」というシンプルながら確固とした酒造りの信念は、越乃寒梅が歩んだいずれの時代でも失われておりません。
昭和の時代、戦争によって原料の米が手に入らないときでも、少ない米を白く磨くことによって品質を落とさない努力を続けました。
味の流行り廃りが繰り返される中で、濃厚で甘口の酒がもてはやされても、淡麗辛口の日本酒らしさを失うことなく、現代に続いています。
実は、この「幻の酒」も苦難の道を歩んできたのです。コクよりもキレにこだわった味、大量生産大量消費の時代にそぐわない製造方法……売り上げが低迷した時代もありました。それでも、儲けよりも「越乃寒梅」そのものにこだわり続けた結果、転機が訪れます。
地酒ブームの到来です。
1960年代に雑誌で取り上げられてから、越乃寒梅の人気は急騰し、需要が大幅に増しました。ですが、醸造元の石本酒造は、安易な大量生産に走らず、昔からの理念の下に酒造りを続けています。そのため、需要に供給が追いつかず、「幻の酒」の筆頭として名が挙がるほどになってしまいました。
前述の通り、元々は地元の方に気軽飲んでもらえる酒として生まれ、今でもその考えを失ってはいないので、石本酒造でもこの「幻の酒」と呼ばれることに困惑を隠せずにいるようです。
いかにも日本酒らしいお酒なので、味の面白みがあるかといえばそうではありません。しかし、この日本酒が生まれた経緯、醸造元の酒造りに対する信念を考えると、これほど”らしい”味はないと思います。