
- 生産国
- 日本
- 生産地方
- 新潟
- 分類
- 日本酒
- タイプ
- 純米大吟醸
- 主原料
- 亀の尾
新潟県の久須美酒造が造る「清泉『大吟醸』亀の翁」は、とても落ち着いた味わいのお酒です。一口含むとフルーティな香りが立ち上りますが、決して派手ではありません。どちらかというと、静かで、上品で、気品の漂うような味です。柔らかく透明感がありますが、その中にどこか一本ピンと筋の通った、どっしりとした風格があります。そのキレと風味の豊かさに、ファンの多いお酒です。日本酒になれない人が飲むと、その美味しさに衝撃を受けてはまってしまうこともあるほどです。亀の翁を語るとき、まず触れなければならないのは原料のお米です。なぜなら、この亀の翁というお酒は、そこから始まっているといっても過言ではないのですから。亀の翁の原料になっているのは「亀の尾」というお米です。この「亀の尾」は、食用米としても酒米としても非常に優秀でした。多くの子孫品種を残しており、今でもササニシキやコシヒカリにも系統が受け継がれているほどです。しかし、「亀の尾」そのものは一時期まったく栽培されなくなっていました。この「亀の尾」で造った酒を越える酒はない……杜氏のこの言葉を聞いて、一念発起した方がいらっしゃいました。当時の久須美酒造の当主久須美記廸(くすみ・のりみち)さんです。
彼は1980年に農業試験場から譲り受けたわずか1500粒の種子を、試行錯誤しながら3年かけて栽培に成功します。そして、それを原材料として亀の翁が生まれました。酒造家の情熱が産んだお酒なのです。
ここまでの話を聞いて、漫画好きの方ならピンときた方もいるかもしれません。この「亀の翁」誕生の話は、漫画「夏子の酒」(尾瀬あきら作)のモデルになっています。この「夏子の酒」は1994年にテレビドラマ化されたので、知っている方も多いのではないかと思います。また、亀の翁の味を作っているのは米だけではありません。久須美酒造が仕込みに使っている水は、蔵の敷地内にある縦井戸から湧き上がったものです。久須美酒造の屋号「清水屋」はその水から由来しているといわれています。
久須美酒造は自家の裏手に杉山を所有しており、この杉林が名水を育んでいるのです。美しい水を絶やさないように、代々この杉山を守っておられるそうです。
「亀の翁」はまさに良質な米と水、そして人の情熱から造られた銘酒だと言えるでしょう。
今でもファンが多く、日本酒を嗜むなら一度は飲んでおきたい銘柄です。決して派手な印象を受けないのに、一度飲むと、記憶にしっかりと刻まれて忘れられなくなってしまいます。